はじめに
こんにちは!
食と農と暮らしのがっこう「風和土(ふわっと)」、れいちゃんです。
多様な学びの場・教育の場に携わる人にお話をうかがうインタビュー。
前回のインタビューは、こちら。
今回のお相手は、QDEC(九州デモクラティック教育コミュニティ)のメンバーのみちるさんです。
みちるさんは、現在、九州でデモクラティックスクールのスタッフをされています。
また、デモクラティックな環境で育って成人されたお子さんがおられます。
前回インタビューした今井恭子さんと同じく、2024年7月に、台湾でのIDEC(International Democratic Education Conference)に参加されました。
台湾で見聞きしたこと、そして、日本でオルタナティブ教育の世界に関わって来られた経験から、今感じていることを、ざっくばらんに話していただきました。
台湾で見聞きした、オルタナティブ教育事情
台湾の人たちが学校教育を変えてきた原動力は?
ーーーみちるさんは、台湾へは2回目ですよね。まずは、今回の台湾、どうでしたか?
みちるさん:
前回の台湾訪問は2018年。
その前に、2017年に東京で開かれたAPDEC(アジア太平洋デモクラティック教育大会)で、台湾のホリスティック・スクールの校長先生のお話を聞いたのが、目からウロコで。
もっと台湾の学校教育のことが知りたくなって、その半年後に、実際に学校を見学させていただけることになって。
2つの学校を訪問したんだけど、台湾の人たちの行動力と、変革を恐れず前進するパワーに、たくさんの刺激を受けたんだよね。
あれから6年。
なぜ、台湾はそんなに教育改革*が進んだのかを探りたい、というテーマが自分の中にあったの。
今回のIDECでは、それを教えてくれる人を探したのね。
台湾の変化とその原動力が、何だったのかを知りたかったの。
*台湾の教育改革=台湾では、1990年代からオルタナティブスクールが立ち上がるようになったが、法的な根拠がないため、最初は違法とされていた。その後、オルタナティブ教育(実験教育)に関する法律が、2000年、2002年、2014年に制定され、2014年の段階ですべて違法ではなくなっている。
台湾の知識人が、行政を動かしてきた背景
ーーーでは、前回よりも理解が深まったことがありましたか?
みちるさん:
1つは、知らなかった台湾の歴史的な部分の話を聞いたことかな。
「原住民」という言葉を、何度も聞いたんだよね。
台湾にもともと住んでいた人たちのこと、誰も背景は語らないのね。
タブーもあるのかな?という印象も受けたんだけど、原住民の存在を、要所要所で話していたのね。
いつ大陸から移り住んだのかによって、いくつかのグループがあるみたい。
*台湾の原住民=日本語では一般に「先住民」だが、台湾語では「原住民」。台湾で「先住民」と言うと、すでに滅んでしまったという意味合いを含んでしまうらしい。
もう1つは、台湾の民主化運動に、知識人が動いていたこと。
その裏に、受験競争に疲れ切っている子どもたちを支援したいという親御さん、そして知識人の動きがあったみたい。
中国から自分たちの国を守らなければいけない、「国防」という観点もあるから、行政が教育改革に一定の理解を示した面もあって、だから教育改革が進んだのかな、と。
そのあたりが、前回より理解が深まったことかな。
富裕層がオルタナティブ教育を選んでいる〜幸せの基準とは?
ーーー台湾のオルタナティブ教育のことや、社会的背景など、その他にもわかったことがありますか?
みちるさん:
不登校という面では、台湾にも不登校はあったりするんだけど、早いうちに政治として手を打ったので、数が増えていくことがなくなったみたい。
受験戦争という世界で、親が子どもを一生懸命導いていく人たちは多いんだろうけど。
それは、台湾も韓国も日本も同じなんだろうけど。
でも台湾では、富裕層が、好んでオルタナティブ教育を選んでいくというのが、面白いんだよね。
思い切りがいいのか、違う道を選ぶことを恐れない親たちなのか。
日本の方が、親たちは保守的なのかも。
逆に、裕福でないと、選択肢がなくなってしまうのが台湾。
日本は、フリースクールや不登校支援の道があるからね。
いい教育を受けている人たちが、ビジネスでも成功していて。
お金だけでなく幸せを求めていて。
哲学的な面でも、知識を持っている人たちが多いのかもしれないね。
日本では、裕福な人たちは保守的になっていく印象があるけど。
オルタナティブ・スクールに法的なバックアップはあるけれど・・・
ーーー台湾は、今は法的な整備が進んで、オルタナティブ教育を国が支援する形になってるんですよね?
みちるさん:
昔はオルタナティブ・スクールを立ち上げるのは違法だったんだけど、でも、目をつぶってくれていたみたい。
「種子学校」*も、スタートしたときは無法な状態だったので、法的にも縛られることなく自由にやっていたみたい。
*種子学校=1994年設立。台湾では初期の頃に立ち上がった小学校のオルタナティブ・スクール。
でも、今は、法律が整備されたことにより、どの法律が適用されるかがはっきりしてきたので、昔の種子学校のようなやり方で学校が生まれることは、もうないでしょう、と言われていたんだよね。
もちろんいいところもあるんだけど、
昔のような自由な学校が生まれる土台はなくなってしまったって。
学校を始めようと思ったら、どのパターンの学校にするかを選ぶところからになるって。
ホームスクーリングにも積極的、国からの助成金も
ーーー台湾のホームスクーリングは、どうですか?
みちるさん:
ホームスクーリング*も、積極的なホームスクーラーが多いみたい。
学校に行かなくなったから仕方なく家で、ではなくて、
幼稚園に上がるときから、ホームスクーリングを視野に入れてる。
*ホームスクーリング=オルタナティブ教育の1つの形で、学校に通わず、家庭を拠点に学習するスタイル。ホームスクール、ホームエデュケーション、とも言う。
ホームスクーラーにも、国から助成金が支払われているって。対象は、高校生。
1年前に法律が変わったから、これからは小中学生にも支払われることになるって言っていたよ。
ホームスクーリングに助成金がもらえるというのは、どうなのか、もう少し聞いてみたいな、と思ってるの。
ちゃんと子どもの教育に使われてるのか、家庭によっては上手く使えてないんじゃないかと、気になるところなんだよね。
日本の子どもたちや親御さんに伝えたいこと
ゆっくりと育っていけば大丈夫
ーーーみちるさん自身も子育てをしてきて、スクールで子どもたちと関わってきて、子どもたちや親御さんたちに伝えたいことってありますか?
みちるさん:
子ども時代って、そこまで時間に縛られなくて、たくさん時間があって、のびのびと、だらだらとすることが許させる時代だと思うんだよね。
家でも外でも、自由に。それが本来の子どもの世界で。
だけど、それが許されなくなって、大人よりも忙しい時間を送っている子どもさんが多いんじゃないかな。
「大学生の不登校」という話を聞いたことがあるのね。
人間関係で続けることができなくなって、ひきこもりになって、元気がなくなって、「自分は生きる価値がない」と苦しんでいる・・・
でも、そこまでして大学にこだわる必要あるのかな?
何かしらの教科なり専門分野なりを深めていくのが大学だと思うんだよね、
大学がカウンセリングの場になるのは、どうなのかな、と。
親も、大学くらいは出ておきなさい、と思ってるのかもしれないし。
肩書が必要だと思ってるのかもしれない。
そういうのがあるから、本人たちも苦しいんだと思うんだよね。
高校に行ってなくても、自分が何をやりたいのかを自分で考える力があれば、大丈夫だと思うんだよね。
自分で考えて探すのも知恵だよね。
本人が考えて決めることだからね。
それに、学校を出たらいきなり就職するとかでなくても、何らかの労働をして、賃金をいただくというのは、お金を稼ぐ「いろは」的な部分じゃない。
そのハードルを高くする必要ないし。
ゆるやかに移行してもいいわけだし。
その過程で、自分に対する自信をもつことができたり。
もう少しやってみようかな、と自分で判断することもあるだろうし。
やってみて、もっと稼がないと、と思うこともあるだろうし。
最初はサポートが必要なこともあるだろうし。
最初は練習だよね。
これでいいんだ、心配しなくていいんだ、と、そういうところに行き着いてくれたら、親は楽になるよね。
自分を理解するということ
ーーーゆっくりした時間の中で、自分は何が好きなのか、何が得意なのか、何が大切なのか、といったことを見つけることができたら、なんとでもなるということですよね。
みちるさん:
自分を理解することができていたら、自分で切り開いていけるんだよね。
自分は何をしているのが幸せか、自分のこだわっている部分は何か。
それを大事にすることができる。
人の価値観は、みんな違う。
だから、自分で納得さえできていたら。
何も自分の生き方を厳しくしていく必要なはないから。
もっと肩の力を抜いて、長い目で見ていてほしいな。
自分は何もしてあげることはできないけど、自分たちがこんなふうに存在していることで、これもありなんだ、と思ってくれたらいいな、と思ってるよ。
学校は、選ぶことができる、ということ
ーーーそういう意味では、今の多くの「学校」という場所は、なかなか大変ですよね。
みちるさん:
破綻してしまっている小学校もある。
先生のなり手がいない。
学校が魅力のあるものじゃなくなっている。
若者が魅力を感じない場所に、自分の子どもをなぜ押し込まないといけないのか、と思っている親御さんもいるのかもしれない。
でも、親御さんがそう思っていたとしても、それでも「行かないといけない」と思ってしまっていることに、悲しさを感じるんだよね。
ーーー日本の今の状況の中で、子どもさんに合ったスクールと出会えた親御さんは、ラッキーなのかもしれないですね。
みちるさん:
オルタナティブスクールを選ぶ親御さんは、
思い切りがあるのかもしれないし、背に腹は変えられないという場合もあるだろうし、
でも、先を行っている親御さんなのかな、と思う。
親御さんが暗くないからね。
100%の納得はできていないだろうし、100%安心しているというわけじゃないだろうけど。
自分が通ってきた道じゃないから、不安はあるだろうけど。
最初から違う選択肢を視野に入れている親御さんは、少ないと思うけどね。
ほとんどの場合は、不登校になって初めて、選択肢を考え始めるんじゃないかな。
それでも、昔と比べると、最初から選択肢として考えている親御さんも、増えてきたんじゃないかな。
超マイノリティじゃなくなって、そういう人もいる、というくらいにはなってきたんじゃないかな。
学校を選ぶことができたとしても・・・
ーーー日本も、行きたい学校を選ぶということが、昔に比べるとやりやすくなってると思うんですけど、どんなふうに感じていますか?
みちるさん:
台湾との大きな違いは、
オルタナティブ教育を認めるか認めないか、
学校に行かない選択を、法律的に認めるか認めないか、
だと思うんだよね。
日本でも、何年か前に法律が変わったから
学校に行かなければいけない、というのはなくなったんだけど
学校に行かない選択をしても、結局、教育費みたいなのはその子どもには支払われないんだよね。
公立の小中学校を選んでおけば、
子どもは国のお金で教育を受けることができる。
でも、そうでない選択をした場合には、
親が自費で学費を捻出しないといけない。
経済的な負担をしなくていいことになれば、
どんどん学校離れがすすんでしまうかもしれないけれど。
それは望むところじゃないんだろうけど。
だから、学校の質を高め、学校の改革をしながら、
他の選択肢も認めていけるような対策が必要なんでしょうね。
台湾のオルタナティブスクールの実践を、日本の行政関係の人にも見に行って欲しい。
うまくいっている事例として。
新しい形の学校に、多少でも行政が関わってくれると、運営的な面でも助かるかもしれないよね。
仮に行政の支援がはじまったとしても、
デモクラティックスクールの場合は、カリキュラムは出せないから、後回しになるかもね。
だけど、行政が支援する学校法人の中でも、
ちょっと変わった学校が生まれるようになったら
そこから初めて、デモクラティックスクールのようなところも
もっと認知されるかもしれないね。
今とは違う形の小学校をつくることを、文科省も認めてるわけだしね。
AI時代の、これからの教育・学び・生き方とは?
ーーーこれからの学校、これからの学びは、どんなふうになってくると思いますか?
みちるさん:
生き方の問題になってくるんじゃないかな。
今からは、AIが人間の仕事をこなしてくれるようになって、
人間が一生懸命仕事をして稼いで、ということをしなくていい時代になってくるから。
最低限の労働は、AIがまかなってくれるとなると
「じゃあ私が何がしたいのか」、というところになってくるよね。
例えば、これから先の未来には、
小学校に行かなくても、子どもは子ども自身で学べる空間があって、
国が配るバウチャーを持って行きたいところに行って、
というふうになってるかもしれない。
じゃあ自分は何がやりたいのか、幸せとはなにか、という話になってくる。
やりたいことが見つからない人もいるかもしれないし。
想像はつかないけどね。
自分で考えて、自分ができることを、自分が納得するレベルで生きていく、
ということが、とても幸せなことだと私は思うよ。
逆に、朝早くから夜遅くまで、
やりたくない仕事を、やりたくない環境でやることが、
どうなのかなーと思う。
人それぞれだろうけど。
子どもを大学に行かせるために一生懸命になるのは、
何のために?となってくるだろうし。
結婚する意味、子どもを産む意味が見いだせない人も増えているだろうし。
それなのに、親が、今までの価値観で、
いい大学に行って、いい仕事に就いて、いい家庭を・・・と一生懸命になってるとしたら。
教育を語り始めると、今の現状がどうなのかな、と思ってしまうんだよね。
おわりに
以上、みちるさんへのインタビュー、いかがだったでしょうか?
教育の話をしていると、自分が何者で、どう生きるのが幸せなのか?という話に行き着くな、と思いました。
それは、1人1人違っていて、1人1人の中にあるもの。
その自分の中にあるものを、自分が見つけて、納得していたら、
何があっても、どんな形でも、自分の道を開いていけるんだろうな、と思いました。
誰の中にも、必ずあるもの。
だから、あせらず、あわてず、ゆっくりと育っていく。
それを信じて見守れる大人の1人でありたいな、と思いました。
最後まで読んでくださって、ありがとうございます。
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